ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」問題

ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」問題が注目されていますが、問題が顕在化してきた経緯、ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」の具体例、ケアマネのシャドーワークは避ける対策方法、ケアマネのシャドーワーク問題の今後などについて詳しく解説します。

ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」問題が顕在化してきた経緯

居宅ケアマネの経験がある人であれば、誰でも「この仕事ケアマネの仕事じゃないんだけどな」と思いながら、でも利用者が困っているから仕方なく「本当はダメなんだけど、今回だけよ!」と言って行っていた仕事というのがたくさんあると思います。しかし、業務としてはなくやってしまっていることとしてただなんとなくモヤモヤとしながらも見過ごされてしまってきたのがこのケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」問題です。

実際にはシャドーワーク問題はケアマネに限ったことではなく介護職員や介護保険事業者みんなが経験したことがある問題です。

介護業界の「シャドーワーク」とは?事例ややってしまう心理学

居宅介護支援費に利用者負担を導入した場合の影響を考える中で「シャドーワーク」も整理されてきている

2000年に介護保険制度ができてから、居宅介護支援(居宅ケアマネ)の費用は利用者の自己負担はなく全額保険から介護報酬が支給される形式となっています。2020年頃から、居宅介護支援(居宅ケアマネ)の費用も、他の介護保険サービスと同様に利用者負担を設ける形ではどうかということが議論されるようになりました。

居宅介護支援(居宅ケアマネ)に利用者負担を導入する場合、「私もお金払っているんだからケアマネももっと仕事してよ!」となることは容易に想像ができ、利用者側もケアマネに求めることが増えるため実際今の段階でケアマネは介護保険法や運営の基準等で決められている業務の他にどんなことをしているのかということの調査が行われました。

令和4年4~5月に居宅介護支援事業所に所属する当協会会員2,000名、市町村(保険者)500件、地域包括支援センター500件を対象に標記調査を行い「居宅介護支援費に利用者負担を導入した場合の影響及び介護支援専門員の業務の実態に関する調査研究事業報告書」をまとめたことから実態が徐々に明らかになってきました。

さらに、2024年3月10日の日本介護経営学会のシンポジウムで厚生労働省の老健局長なども交え、このケアマネジャーの業務と、高齢者の生活課題に対してケアマネジャーが無償行っているいわゆる「シャドーワーク」も多すぎるということを明言し、しっかり検討していくという方針を示したことから注目が集まりました。

ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」の例

ケアマネならばやってしまったことがあるであろうお手伝い(シャドーワーク)の具体例を紹介します。なぜこのようなことをケアマネがやってしまう状態になるかというと、生活上必要ではありつつも介護保険の範囲内でできるサービスではないからです。

カテゴリ サービス内容 具体的な例
家事支援 掃除 床の掃除、カーペットの洗浄、窓ガラスの掃除
洗濯 衣類の洗濯、乾燥、たたみ
調理 食事の準備、特定の食事制限に合わせた料理
買い物代行 食料品や必需品の購入
家のメンテナンス 電球交換 天井の照明や壁のスイッチの修理
家具移動 ベッドやソファの配置替え
草取り 芝生の手入れ、枯れ葉の清掃
粗大ゴミの処理 家具や家電の適切な処分方法のアドバイスと搬出
外出支援 医療機関の訪問 医師の診察や治療の同行、薬の受け取り
お買い物の同行 自分の好きなものの買い物などで特定の店への同行
散歩の付き添い 地域の公園やイベントへの安全な外出
社会的交流の促進 話し相手 日常会話から趣味や過去の思い出話まで
イベントへの同行 コンサートや地域の祭りへの同行
特別なニーズの対応 家電やスマホなどのサポート スマートフォンやコンピュータの使い方、家電などの指導
運転サポート 運転の代行や車検の手続きの支援
緊急時の対応 電力や水道、お金のトラブル時の応急処置
生活環境のアドバイス 生活空間の安全改善や便利な生活用品の提案

現時点でもケアマネのシャドーワークは避けられる対策方法

ケアマネのシャドーワーク問題は、ケアマネ自身が介護保険の居宅介護支援としてのケアマネの業務の理解が不十分であることから受けてしまっている側面があります。介護の仕事を志すと、慈善事業として仕事と自分の人格を重ねてしまったり、他にやる人がいないから自分がやるしかないと思ってしまたり、そのような自分自身のマネジメントや、周囲のマネジメントができていないケースが多いです。

居宅ケアマネとして経験を積まないとわからないことも多くありますが、本当はケアマネの業務じゃないのにやってしまっていたようなことが積み重なってきているようであれば、居宅介護支援の契約をする際に契約内容や重要事項説明書の中に業務外のことが断ることもあるということを明記してしまうことも対策方法の一つです。

これは新規の利用者の契約の時だけでなく、今まで契約しているご利用者に対しても「トラブルが発生することがあるので重要事項を説明の内容を見直しました」と再度ケアマネとしてできることの説明をしっかりとして同意をいただくということでも避けられます。特に居宅介護支援事業所の管理者の人や経営者は、自治体の担当者などと相談しながらこのような対策を進めていただく方が良いかと思います。

ケアマネとして地域の民間フォーマルサービス・インフォマルサポートの利用も

ケアマネのシャドーワークでやってしまっていることは、結局は便利屋さんがやっていることなのです。世の中ではビジネスモデルとして、生活で困っているちょっとしたこと・ちょっとしたニーズにお応えしますという「便利屋」が成り立っています。

ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」の例で紹介したような内容も、便利屋さんは対価をもらってサービスを提供しています。高齢者は経済的に貧しい人も多く、ケアマネジャーには高齢者の権利を擁護するという責務があるので、できるだけ負担が少ないように支えてあげなくちゃならないという気持ちになるのかもしれません。しかし、ケアマネとして利用者と関わっている関係性は、家族や友人がちょっと手伝ったりするのとは立場が違います。

マネジメントをする立場であり、ケア方針・生活上のニーズに合わせて、人やサービスとをつなげて調整するのがケアマネの仕事です。

ケアマネのシャドーワーク問題は今後どうなるか

ケアマネジャー業務の範囲外「シャドーワーク」問題は、今後どうなるかについて考えてみると、方法は3つになると思います。

1つ目は、便利屋的なサービスも施設として無償・有償で提供しているサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームのような施設に入ること。

2つ目は、上記と少し似ていますが多機能型の施設で色々やってもらって月額いくらという料金体系が決まっている介護保険サービスを利用すること。正しいこちらも介護保険の枠内で行われている小規模多機能型居宅介護などの場合には何でもかんでもやってもらえるというわけにはいきません。

3つ目は、やはり便利屋のようなサービス業者と利用者が直接契約して必要な時にサービスを受けてもらうこと。信頼できる業者がおらず、それでもニーズがあり採算がとれるのであれば、居宅介護支援事業所とは別法人などで便利屋としての事業を始める動きもあるのではないかと想像します。

ケアマネのシャドーワーク問題は、現実的にはこの辺りに落ち着いていくのではないかと考えます。

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令和6年~8年 地域区分(介護)区市町村の等級一覧(2024年4月~)

2024年介護報酬改定後の介護保険サービスごとの介護報酬・単位数

令和6年度介護報酬改定では、4月に変更となる内容と、6月に変更になる内容があります。例えば、訪問介護費の場合、基本報酬部分は4月から、処遇改善加算等は6月から変更という2段階での変更が生じることがあります。詳細は各記事に添付している厚生労働省のサイトからご確認ください。

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補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。 令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し 令和7年8月1日施行  多床室の室料負担